音楽をもっと身近なものにするために、ヴァイオリンを中心にさまざまな楽器編成で、演奏機会の少ない現代・近代の作品を取り上げて、室内楽コンサートを行っています。初めて聴く音楽に耳を澄ます楽しみを味わってください。
砕けてもあり、、、 En Milles Eclats について
2017年9月9日《ヴァイオリン コンセール モノローグ》で演奏される『砕けてもあり、、、』について

EN MILLE ECLATS (2009) Edith CANAT de CHIZY(née en 1950)
commandé par Quartiers Musicaux et Club Péniche


砕けてもあり、、、  エディット・カナ=ドゥ=シズィ
カルチエミュジコ+クラブペニッシュ2009年委嘱作品


milles eclats

砕けても
砕けてもあり
水の月

«  Fût-ce en mille éclats
Elle est toujours là
La lune dans l’eau ! »

Cet haiku de Ueda Chôshu m’a donné la trame de cette pièce dont son thème est la confrontation entre l'immuable et l'éphémère, mais aussi entre le mobile et l'immobile qui est un thème très présent dans ma musique. Cette pièce pour violon seul commandée par l’ensemble japonais «Quartiers Musicaux», et qui sera créée dans le cadre d’un concert monographique de mes oeuvres à Yokohama.
Edith Canat de Chizy

 もっとも親しみを抱いている楽器であるヴァイオリンのためのこの作品は、カルチエミュジコから委嘱され、そのために見出した上田聴秋の俳句「砕けても 砕けてもあり 水の月」が創作のための道筋となっています。いうまでもなく「不変性とはかなさとの対照」が、この作品のテーマです。
エディット・カナ=ドゥ=シズィ


曲目解説
 カルチエミュジコとクラブ・ペニッシュによる委嘱シリーズの最初の作品として、2009年にフランスの作曲家エディット・カナ=ドゥ=シズィに新作を委嘱した。この曲を書くにあたり、作曲家は、いちばん親しい楽器ヴァイオリンのソロのために、上田聴秋の俳句「砕けても 砕けてもあり 水の月」の仏訳にインスピレーションを得た。

 俳句は日本語ばかりでなく、海外でもさまざまな言語に翻訳されるとともに、創作され続けている。外国語では、わずか5-7-5の17音節という音節数はともかく、俳句の簡潔さ、諧謔性、季節感の精神は守られているように思われる。バルトの言うように、俳句は言語以前に沿って書かれ、言語の意味をもたない。あるいは、物語の展開もなく、そこに見出されるのは言語の中断であり終焉だとも言えるだろう。聴秋の俳句は、つねに空に浮かぶ月はつねにそこにあり、砕けているのは水のゆらぎのなかに浮かぶ(こなごなになった)月(の破片)である。なんらかの理由による水の揺らぎはあっても、どちらも同時に、並列してひとつの映像として並べられている。そこには、たゆたっている時間はない。作曲家は、そこに永遠性と儚さ、あるいは動性と不動性という、これまでの他の曲におけるテーマと共通するふたつの側面を見出し、それらを対比させながら音楽を紡いだ。(音のつならりのなかに、時間が必要な音楽家にとって、それは有効な解決方法であろう。)冒頭32分音符の断片的な塊ではじまり、繰り返されたのちに高低差の少ないグリッサンドをともなった長音となり、ピッチカートの短い和音が挿入される。微妙にテンポを変化させながら、途中、おだやかな楽想の部分を挟みながら、この対比は繰り返され、最後はわずかな音を残しながら、ピッチカートの和音を奏でて全曲を閉じる。最後を除いて、全曲にわたって小節線はない。

 エディット・カナ=ドゥ=シズィは、この曲につづいて、ピアノのための『静寂のプレリュード』(2009)で夏目漱石の、ヴァイオリンとピアノのデュオ『5つのミニアチュア』(2013)では幸田露伴、千代尼、小西来山、渡辺水波の俳句から、短くて束の間で、最小限にとどめられた音楽へののインスピレーションを与えられている。

エディット・カナ=ドゥ=シズィ ビオグラフィ
2005年に芸術アカデミーのメンバーに選出された、1950年生まれのエディット・カナ=ドゥ=シズィは、フランス学士院入りした最初の女性作曲家である。ヴァイオリンを学んだのち、パリ・ソルボンヌ大学では芸術・考古学・哲学の学位をもっている。パリ高等音楽院で音楽を学び、和声学・フーガ・対位法・アナリゼ・オーケストレーション・作曲のクラスで一等賞を得ている。イヴォ・マレックに師事したのち、1983年にモーリス・オアナと出会い、師事した。
フランス政府・ノルウェー政府やラジオ・フランスなどから委嘱された作品は、さまざまな賞を受賞している。1997年には、メッツのアルスナルのレジデンス作曲家として迎えられている。ヴァイオリン協奏曲などのオーケストラ曲をはじめとし、声楽曲や室内楽曲など、これまでにおよそ60曲の作品がある。ヴァイオリンをはじめとする弦楽器のための室内楽曲ならびに合唱曲がとくに重要である。2005年にはパリ管弦楽団の委嘱によるヴィオラ協奏曲『陽光の輝き』が、アナ=ベラ・シャーヴの独奏、クリストフ・エッシェンバッハの指揮によって初演され、サセム批評家大賞を授与された。また、弦楽器のための作品を集めたCD『ムーヴィング』はシャルル・クロ・アカデミー賞をはじめとする数々の賞を受賞している。


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◼︎2009年《エディット・カナ=ドゥ=シズィ コンセール・ポルトレ》アルバム

上田聴秋
1852(嘉永5年)-1932(昭和7年)
UEDA Chôshu
1852(Kaei 5)-1932(Shôwa 7)

01 上田聴秋

美濃国に大垣藩士として生まれる。幕末京都俳壇の重鎮八木芹舎(花本芹舎)の門に学び、江戸に出て慶應義塾に入学。
明治17年(1884年)、京都に帰郷し、「梅黄社」を設立。『鴨東集』(のち『俳諧鴨東集』『俳諧鴨東新誌』)を創刊。
明治32年(1899年)6月に雑誌「太陽」が催した「俳諧十二傑」の投票で、老鼠堂永機・正岡子規・三森幹雄・尾崎紅葉・角田竹冷・巌谷小波・雪中庵雀志・幸堂得知・内藤鳴雪・桂花園桂花と共に12傑入り。
門人に茶谷霞畝、竹内菊園句碑など。

02 短冊「砕けても砕けてもあり水の月」
◼︎短冊「砕けても砕けてもあり水の月」

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◼︎ガリマール社《HAIKU》表紙