音楽をもっと身近なものにするために、ヴァイオリンを中心にさまざまな楽器編成で、演奏機会の少ない現代・近代の作品を取り上げて、室内楽コンサートを行っています。初めて聴く音楽に耳を澄ます楽しみを味わってください。
カルチエ・デテ2010 曲目解説
 「クセナキスの力強さを学んでみたい」と書かれた宮川渉のヴァイオリンとチェロのための『x.へ』は「数学専攻の友人が描いた指数曲線から決定された音高と音価による、クセナキス音楽の特徴であるグリッサンド奏法が重要な役割をはたしている。」1拍先に始まったヴァイオリンをチェロが追いかけピアニッシシモからフォルテッシモまで1本の弦でトレモロ・グリッサンドし高音トリルで合流する。テンポが変化して下降と急上昇を繰り返し、細かい鋭いリズムとグリッサンドの掛け合い後〈レ〉の単音でユニゾンとなる。2楽器の四分音の4音の重なりでうねりが生じ、重音のグリッサンド後のチェロの明確な32分音符と長い即興がある。押しつぶされた音と5連6連のシンコペーションがぶつかり合い徐々にノーマルな音に変化した後、駒上の〈レ〉の弱音で終結する。曲名はクセナキスのラヴェルに捧げられたピアノ曲『r.へ』に倣ってなづけられ、「絵描きの見習いが名作複写から学ぶ姿勢と似ているアプローチ」である。

 J-S・バッハ『無伴奏チェロ組曲第5番ハ短調サラバンド』が出発点である宮川渉のヴィオラのための『つらなりによって』のタイトルは、「組曲」の意味が「続き/連続/つらなり」であることから、「あとで/その後」といった意味をもつ「組曲によって」という言葉遊びから選ばれている。バッハのチェロ組曲全体のなかでも、とくにサラバンドは瞑想的静けさとともにひとつのモチーフから多様なかたちで表われる音の「つらなり」が生む動感との相対が非常にうまくかみ合ったモチーフが曲全体を通してさまざまなかたちで使われている。一方この『つらなりによって』は、作曲を通じてヴィオラにアプローチするため、ヴィオラ奏者アンナ・スタルツセヴァの長時間にわたる奏法やアイデアのアドバイスによって、演奏家と一緒になって創作された。多種の奏法の無意味なカタログ的展示という問題を避けるためにサラバンドのモチーフを曲全体に使用して統一感をつくり、形式における方向性と非方向性というふたつの相対するコンセプトというアイデアが取り入れられた。第1部の多種の奏法のランダムな「つながり」が生むまったく方向性のない混沌としたものが、第2部では方向性を持ったドラマチックなものになる2部形式である。

 R・カンポのヴァイオリンのための『エデン』はピアニッシモのヴァイオリンの基本音ともいえる開放弦〈ラ〉の倍音(1オクターヴ上)の全音符ではじまる。『エデン』には,このような開放弦のハーモニックス奏法が随所に出てくる。小節線はなく,基本リズムは8分音符である。リズムが16分音符から6連符、10連符、12連符のパッセージに分割されていき、指定通りの素朴な音の並びの繰り返しが続く。曲の冒頭よりさらに1オクターヴ高い〈ラ〉の倍音からグリッサンドで行きつ戻りつしながら,2オクターヴ高いところまで上がりフェルマータで消えて行く。テンポが上がり、歯切れのよいリズムでピアニッシシモからフォルテッシモへ激しく変化するなかで5度の重音のフラジョレットのグリサンドで極度の高音にまで登り詰める。その後、遠くから聞こえてくるピアニッシシシモの6連音符の繰り返しからフォルテシシモまで激しく加速するなかで強度が増加する。ピアニッシモの付点リズムによる柔らかな部分に入り、さらにゆっくりなテンポになるとハーモニックスのデリケートなメロディと激しいフォルテの対比のあと、細かい自由なリズムで高揚する。高音で静かなメロディが次第にゆっくりとなりピアニッシシモの〈レ〉の倍音で終結する。

 R・カンポの最初の弦楽四重奏曲第1番『呪文の時間』はボン・ベートーヴェンフェスティヴァルの委嘱としてイザイ弦楽四重奏団のために書かれた。全体は弦4部が同期して演奏する部分とそれぞれの楽器が任意のバラバラのテンポで演奏する部分が交互にあらわれる。低弦から〈ソ/レ/ラ/ミ〉という開放弦の5度音程で始まる。冒頭の同じリズムがバラバラになり次第に8分音符で集結してゆく。3連音符のリズムが続く。短い任意テンポのあと、ヴィオラ・チェロの3連音符にヴァイオリンが異なるリズムで加わり全体が弱音のなかへ終熄する。つぎの長い任意テンポで演奏する箇所では16分音符パッセージとアルペジオピッツィカートがあり、ヴィオラは楽器を叩きだす。8分音符と3連音符の合流と分離がくり返され、フォルテッシモで全員が決然とした同じリズムで一体となる。同期テンポでの8分音符のアクセントがずれた追いかけ合いがあり、2分音符、強弱強弱の繰り返しで合流。弱音の任意テンポ。2グループでの、アルペジオのかけ合い。16分音符の早いパッセージの任意テンポが終わると、チェロは4度重音、ヴィオラと第2ヴァイオリンは開放弦ハーモニクスで5度、第1ヴァイオリンは不協和音のピアニッシモの16分音符があり弱音による長音のフェルマータのあと、次第に8分音符の動きが戻り、冒頭のテーマが再びあらわれる。全員同じリズムのフォルテッシモの短いコーダで曲を閉じる。曲名は「ポリテンポの詩的翻訳で、捩じれ/めり込み/加速・減速して翻弄されるテンポを表現している」

 「ケルト音楽のフィードルヴァイオリンの音色とフレーズを模倣する脅迫観念的な狂気のダンスである」R・カンポのヴァイオリンとヴィオラのためのデュオ『陽光の輝き.2』は「第4弦楽四重奏曲のあと同じアイディアとエネルギーで書かれ、純正でシンプルなラインによるスタイルの簡潔さを模索している」。ひとつのテンポでのユニゾンの2小節のテーマがグリッサンドやオクターブや不協和音でぶつかったり弓の木の方で弾いたりする繰返しの楽章と弱音器をつけて演奏される物悲しいメロディーの楽章が演奏される。

 「ブルターニュをイメージし、哀悼と瞑想と同時に歓喜と信仰が刻印され、さまざまな場面で古代口承文学からのインスピレーションによる普遍的・永遠不変の特性を与えられている」R・カンポのチェロのための『ファンタジーの本』全10曲から、クレッシェンドで上昇しディミニュエンドで下降する三度の音形で始まる第2番とフォルテッシモの三重音で激しく始まり最低音〈ド〉の開放弦で終わる小節線のない第10番が演奏される。

 R・カンポの単一楽章の弦楽四重奏曲第4番『エナジー/フライ』は冒頭3音〈ド/ミ/レ〉をテーマとして繰返し記号で囲われた1から数小節がパターンとなってリズム・強弱・音高が変化・発展していく。全曲をとおして基本リズムは4分音符で、テンポもかわらない。パートごとのオクターヴ・10度進行がおおい。繰り返される楽しげなリズムで、弓の木部で弦をたたいたり、楽器をたたいたりして「とてもシンプルに、ダンスと人生における純粋なエネルギーを表現している」。ユーモラスたっぷりな中味に踊り出したくなるような音楽である。
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