音楽をもっと身近なものにするために、ヴァイオリンを中心にさまざまな楽器編成で、演奏機会の少ない現代・近代の作品を取り上げて、室内楽コンサートを行っています。初めて聴く音楽に耳を澄ます楽しみを味わってください。
亀の島から吹く風
アメリカと名づけられた大陸に、インディアンと呼ばれる人々がいる。古の昔、そこ亀の島に辿りつき、経巡る旅の果てに好む地をみつけ、時に諍いもあったにせよ、言葉も姿も暮らしも異なるままに、いのちと大地の調和を尊び暮らしていた。時を経て、その地と彼らを「発見」した二つ心の白い人々は、握手した手で盗み打ちすえ、ほとんど全てを奪い尽くした。けれど、決して破壊し得ぬものはある。数多の苦難にまみえながら、現実と伝統が手をたずさえる道を求め、彼らは今も生きている。

北米大陸の遺跡に魅せられた徳井いつ子は、南西部のアナサジ文化の遺跡や岩絵、南東部のマウンド遺跡を訪ねて『インディアンの夢のあと』(平凡社新書034)を著している。B.C.200年-A.D.1300年頃、砂岩やアドビ煉瓦で住居群を築いては移住を重ねたアナサジは、リオ・グランデ流域のプエブロ諸部族とアリゾナ中央部のメサ(テーブル状の台地)に住むホピ族の祖先である。伝統を重んじるホピの神話や儀式からは、アナサジ(ホピの言葉ではイタ・ヒサシヌ; 我々の祖先)の暮らしが窺える。四方位を巡る移住は、世界の調和を守って生きるため、大いなる精霊と交わした約束であり、その末に世界の中心、そのメサに辿り着いたのが彼らホピだという。

岩絵によく見られる図象に、移住を示す螺旋、氏族のシンボル、ココペリがある。背中にコブを持つ笛吹きココペリは、コブの中の種を蒔いては笛の音で熱を生みだし芽吹かせる、豊穣のカチナ(祖先霊)である。ホピの一氏族を導いたマフという虫人が、起源ともいわれる。多くのココペリが描かれた地で、丘に刻まれた歴史を「読んだ」経験を、著者は記している。

チャコ、アステク、メサ・ヴェルデ、ホピの村、また南東部のマウンドに佇んだ著者は「遺跡には、いつも風が吹いていた。時空の彼方から吹きつけてくる風が、生きもののようにのたうち、旋回していた。」「遺跡はからっぽの場所ではない。語られなかった物語、歌われなかった歌、ついには聞きとられることのなかった人々の呟きが詰まっている」と語る。彼女が出会ったホピの陶芸家も画家もチョクトーの女性も、示し合わせたように「遺跡には祖先が、多くの存在がいる、耳元で知恵を囁いてくれる、彼らはすぐ横にいる」と語る。遺跡を空虚な廃墟にするのは、人間の空虚さに違いない。語り継がれた神話を生き続けるホピの人々は、あまりに古くて誰にも意味がわからないココペリの歌を、今も歌っているという。

NN

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インディアンの夢のあと―北米大陸に神話と遺跡を訪ねて (平凡社新書)



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