音楽をもっと身近なものにするために、ヴァイオリンを中心にさまざまな楽器編成で、演奏機会の少ない現代・近代の作品を取り上げて、室内楽コンサートを行っています。初めて聴く音楽に耳を澄ます楽しみを味わってください。
2011年01月29日 トリオコンセールの曲目解説
■宮川渉のヴァイオリンとチェロのための『x.へ』(2002/10)
「クセナキスの力強さを学んでみたい」と書かれた宮川渉のヴァイオリンとチェロのための『x.へ』では「数学専攻の友人が描いた指数曲線から決定された音高と音価による、クセナキス音楽の特徴であるグリッサンド奏法が重要な役割」をはたしている。1拍先に始まったヴァイオリンをチェロが追いかけピアニッシシモからフォルテッシモまで 1本の弦でトレモログリッサンドし高音トリルで合流する。テンポが変化して下降と急上昇を繰り返し、細かい鋭いリズムとグリッサンドの掛け合い後、〈レ〉の単音でユニゾンとなる。2楽器の4分音の4音の重なりでうなりが生じ、重音のグリッサンド後のチェロの明確な32分音符と長い即興がある。押しつぶされた音と5連・6連のシンコペーションがぶつかり合い、徐々にノーマルな音に変化した後、駒上の〈レ〉の弱音で終結する。曲名はクセナキスのラヴェルに捧げられたピアノ曲『r.へ』に倣ってなづけられ、「絵描きの見習いが名作模写から学ぶ姿勢と似た」アプローチである。

■I・クセナキス:『ユネム=イデュエ』(1996)
 ギリシャ出身のI・クセナキスは、パリに出て建築家ル・コルビュジエのもとで建築技師として働いた経歴をもっている。作品の多くは、確立や群論といった数学理論に基づいて構築/作曲された抽象的な音/音群の形象ともいえるもので、それは聴覚上の空間に築かれる創造的な建築物でもある。この『ユネム=イデュエ』(1996)も、そうした作曲理念の一端がうかがえる。楽譜の冒頭におよその演奏速度、演奏法の指示と強弱指定がある他、一切の指示表記はなく、全18小節間終始一貫して、ヴィブラートなしで、フォルティッシモで奏される16分音符から全音符までのさまざまな音価(音の長さ)の音が、リズムの生成により時間的水平軸を、音高の布置により空間的垂直軸を、さらにそれらが対位法的に編まれた二つの楽器の錯綜により精巧さが極められて構築する。その宇宙は、この作曲家の他の多くの作品同様、虚飾を排した峻厳きわまる抽象的世界の極北ともいえるものである。(TS))

■M・ラヴェル:ヴァイオリンとチェロのための『ソナタ』(1922)
 作曲に専念するためにパリ郊外のモンフォール・ラムリに隠棲して最初に書かれたこのヴァイオリンとチェロのための『ソナタ』は、ドビュッシーのソナタを引き継いだ作品である。ラヴェル自身にとっての生涯における転換点として「和声の魅力を放棄し、反作用によって旋律の意味をしだいに明らかにしながら、音楽そのものを極端にまでむきだしにすること」とのべ、大胆な対位法や異なる調の接続、調声からの離脱など、革命的で衝撃的なモンタージュ風試みが見られている。4つのモチーフがシンプルに構成された柔軟なソナタ形式による第1楽章、挑戦的で刺激的なスケルツォ風の簡潔で華々しい第2楽章、多彩で激しい表情の変化を示す緩徐楽章をへて、楽し気な行進曲や子供のためのロンドなど舞曲を多数の主題の含まれている、本質的にリズミックで溌溂とした最終楽章からなる。

■M・ラヴェル:ヴァイオリンとチェロとピアノのための『ソナタ』(1922)
 『トリオ』は第1次世界大戦の切迫したなかで作曲に打ち込み、5週間ほどで遺書として書かれた。明晰で研ぎすまされた筆致には、絶望的運命に対する深い憂愁とそれに立ち向かう情熱が浮き彫りになっている。4楽章に共通の主題はなく、形式的にも独自性をもつ。

 バスクの踊りに由来する第1楽章は、最初の小節の8分の2、2、3とそれらが連結した8分の8のリズムが絶えず繰り返される。繊細な和音の第1主題と対立主題による導入部からヘ長調に転調し、静かに揺れるリズムと無邪気な第2主題へと移る。2オクターヴ離れて重ねられた弦楽器はオーケストラ的な響きがある。短縮された再現部のあと、崇高なコーダに移る。

 スケルツォにかわる定型詩は〈パントゥム〉は反復される激しいスタッカート、ロマチックなものと表現力豊かな長い音符の三つの基本テーマによる挑戦的なディヴェルティスマンである、砕けた和音、耐え難い執拗さ、仮借のない摩擦音が、火花をとばしながらぶつかり合う。

 ラルゴにかわる〈パッサカリア〉は気品ある重々しさを醸し出しながら、荘厳な歌がピアノの左手からチェロ、ヴァイオリンへ少しずつ拡大しながら増殖していく。『マメール・ロワ』のパヴァーヌのカデンツァののち冒頭のレシタティーヴォの線的単純さが見い出される。

 4分の5と7の奇数拍子によるバスク民謡を想起させるフィナーレは、トレモロの輝きにあふれたロンドの長い主題で始まる。この快活な主題がピアノの祝勝賛歌により中断されると、弦楽器のきらめくトリル以降の多調で並べられた完全平行和音による調子全体の明るいファンファーレの輝きは、絵に描かれたような過剰ともいえる強烈な色彩を与えている。
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