音楽をもっと身近なものにするために、ヴァイオリンを中心にさまざまな楽器編成で、演奏機会の少ない現代・近代の作品を取り上げて、室内楽コンサートを行っています。初めて聴く音楽に耳を澄ます楽しみを味わってください。
トリオコンセール(07/04/14)曲目解説にかえて
■クラリネット・ソナタ (Cl. & Pf.) | L.バーンスタイン
□Sonata | Leonard Bernstein (1918-1990)

この『クラリネット・ソナタ』は、ミュージカル『ウェストサイド物語』の作曲家として、また指揮者として有名なL.バーンスタインの初期の作品である。23歳の頃に作曲、初演されたこの曲は、近代フランス音楽的な色彩の響きと新古典的主義の明快な構成の中に、作曲家特有の豊かな旋律感覚と鋭いリズム感覚をにじませている。

■ウクレレ・セレナーデ (Vl. & Pf.) | A.コープランド
□Ukelele Serenade | Aaron COPLAND (1900-1990

コープランドは、聴衆からかけ離れた難解な音楽を書くことに疑問をもち、ジャズや民謡を取り入れた大衆的な音楽を作曲した。この作品は第一次大戦後、パリ留学中の1926年に師事していたN.ブーランジエの演奏会のために作曲した。この『ウクレレ・セレナード』はウクレレを模したラグタイムの軽妙な親しみやすい作品である。当時のパリではジャズが流行し、多くの作曲家が作品にとりいれていた。

■ゴッフレド・ぺトラッシへの感謝(Vl.solo) | E.カーター
□Rinconoscenza per Goffredo Petrassi | Elliott CARTER (ne en 1908)

ニューヨーク生まれのエリオット・カーターは、若い頃には新古典主義的な影響を受けたが、やがて実際の作曲をすすめるなかで、彼の音楽語法は調性から解放されるとともに、リズムの複雑さを増していった。そして、拍子の法則外の非合理的な音価(音の長さ)を用いてテンポを変えていくという「拍節の動転」という概念を取りいれ、彼の音楽に独特のリズムの柔軟性が生まれた。

このヴァイオリン独奏のための『感謝』はイタリアの作曲家ゴフレッド・ペトラッシの80歳の誕生日を祝うために書かれ、プリヴェルノのフェスティヴァルでジョルジュ・モンクによって初演された。このふたりの作曲家はどちらも、古楽からはじまって、セリーおよびさらに前衛音楽に対する洗練された知識を共有している。この作品は、自由なリズムと抑制されたリズムのコントラストである。半即興的で叙情的な旋律は、よりポリフォニックで鋭敏なリズミカルな部分の炸裂によって周期的に中断される。また、ところどころに通奏低音のようなゆったりとしたテンポの和音が挿入されている。このようなコントラストにとんだアイディアが、この想像力にとんだ素材を凝縮しながら、音楽的な対話のなかに組み込まれている。

■小品 (Cl. & Pf.) | C.ドビュッシィ(追加作品)
□Petite piece| Claude DEBUSSY (1862-1918)
■第一狂詩曲 (Cl. & Pf.) | C.ドビュッシィ
□Premiere Rapsodie | Claude DEBUSSY (1862-1918)

1909年になって、ドビュッシーはパリ音楽院の評議員に就任、管楽器の卒業コンクール(試験)の審査に参加、課題曲の依頼を受けて作曲した。短い『小品』は、付点音符のリズミックな穏やかな中庸のテンポによって、序々に音域が高まりフォルテにより頂点にたっしたのちに、最初の音域に戻って静かに曲をとじるなかにも、奏者の音楽性がよくうかがえる作品である。

『第一狂詩曲』は「夢見るようにゆるやかに」と指示のあるように、冒頭、ピアノが薄明の情景を描くなか、クラリネットが細やかな感覚をもってはじまり、つづいて三連音符やアルベジオなど、多様なリズムをもった作曲家特有の機能性の希薄な和声のピアノに対して、第一主題がしみとおるように響く。クラリネットは、さらにエピソード風の第二主題にうつり、さまざまな拍子とともに音型が変化していくなか、情緒や幻想は高められていく。公開演奏では1911年に献呈されたミマールにより独立音楽協会のコンサートで初演、また作曲者自身により、管弦楽曲に編曲されている。 

■右と左に見えるもの--眼鏡なしで (Vl. & Pf.) | E.サティ
□Choses vues a droite et a gauche(sans lunettes) | Erik SATIE (1866-1925)
■シテール島への船出(Vl. & Pf.) | E.サティ
□Embarquement pour Cytere | Erik SATIE

ピアノ曲を多く残したサティによる、現在確認されるヴァイオリンとピアノの2つの作品である。『右と左に見えるもの』は「偽善者のコラール」「暗中模索したフーガ」「筋肉の幻想曲」というこの作曲家らしいタイトルの3曲からなり、楽譜には「良心に手をあてて」「洗礼教徒のように静かに」などと注釈されている。これらは、演奏者に自発的な演奏をもとめている、と考えられる。サティは音に感情移入することを拒絶し、左右に見えるすべての音を冷静に観察しながら(「色」眼鏡なしで)楽譜に置き換えていったといえるだろう。

『シテール島への船出』は、1917年に、ヴァイオリニストのエレーヌ・ジュルダン=モランジュに捧げられているが、さまざまな理由で、完成・初演されることなく、1995年になってからロベール・オルレッジュによって発見され、まとめられて出版された。思いがけないようなすこし不吉な響きの雰囲気に包まれた、このバルカロール(舟歌)風の作品は、同じ頃取り組んでいたドラマ『ソクラテス』との類似性も見いだせる。

■コントラスツ | B.バルトーク
□Contrasts | Bela BARTOK (1881-1945)

『コントラスツ』は、ハンガリーの作曲家としてばかりでなく、ピアニストとして著名なベラ・バルトークが、第二次世界大戦の前後、演奏旅行に赴いた米国において、ジャズオーケストラを率いていたクラリネット奏者のベニー・グッドマンの依頼によって、1938年に書いた作品である。初演は、作曲者と依頼者、そしてバルトークの同国人で友人であった、ヴァイオリニストのヨーゼフ・シゲティによって、翌年ニューヨークで行われた。グッドマンは、それまでにもモーツァルト作品の録音など、クラシック音楽もレパートリーとしていた。バルトークがクラリネットをソリストとして扱うのは、この作品がはじめてであるが、カデンツァをはじめ、自由な形式のエスプリに満ちあふれている。

第一楽章は、クラリネットの柔軟なテーマを中心として、ヴァイオリンのユーモアに満ちたピチカートの伴奏がともなっている。作曲家が特別に気に入っていた「バルトーク」のハンガリー語読みからくる音階(ドレミファソラシ♭)を基調としている。この音階は、たとえば『2つのピアノと打楽器のためのソナタ』の最終楽章の開始部分のシロフォンの主題としても認められる。リズミックな中央部分では、先行する主題が展開され、クラリネットのカデンツァが冒頭のテーマに戻って楽章をとじる。

第二楽章(『休息』)では、ピアノの連打によって区切られるなかで、ヴァイオリンとクラリネットのイ長調のテンポの対立が、一種の禁欲的なコラールを形づくっている。つづく部分では、クラリネット・ソロによるトリルが主体となりながら、やがてピアノに引き継がれる。最後に、ヴァイオリンのピチカートとクラリネットの持続音にのって、ピアノによるコラールが再現される。

第三楽章では、ヴァイオリンの調弦の異なるの開放弦による耳障りな重音によって開始され、それにともなってクラリネットの様相的な速いテンポのテーマがはじまる。やがてリズミカルなピアノとともに、ここではヴァイオリンの一般的な調弦による和声によってテーマが繰り返される。ヴァイオリンが「グラジオーソ」と示されたバルトーク音階による第二主題を提示したのち、三つの楽器によって緻密な模倣による展開が演奏される。8拍と5拍が繰り返されるミステリアスな瞬間であり、最後には、それらを遮断するようにヴァイオリンのカデンツァ部分によって全曲をとじる。

タイトルは、楽器編成の不均質性(とくにピアノ・ヴァイオリンとクラリネットの対比)への作曲家なりの暗示さらには訴求ではないかと考えられている。

この初演の2年後の1940年、ナチズムがヨーロッパを席巻するなか、ユダヤ人を擁護していたバルトークは、米国に亡命し、『オーケストラのためのコンチェルト』『無伴奏ヴァイオリンソナタ』など晩年の名曲を生み出すが、祖国に帰国できないままこの世を去った。
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