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音楽をもっと身近なものにするために、ヴァイオリンを中心にさまざまな楽器編成で、演奏機会の少ない現代・近代の作品を取り上げて、室内楽コンサートを行っています。初めて聴く音楽に耳を澄ます楽しみを味わってください。
「非・自由」の選択
ここ日本では、リベラル(=自由)というと、どちらかといえばよいイメー
ジがある。しかし、最大保守党は「自由」民主党、革新政党もリベラルを
標榜し、リベラリズム(ネオがつくと尚更)はグローバリズムの母胎で…と、
いつも混乱してしまう。薬師院仁志著『日本とフランス、二つの民主主義』
(光文社新書265)は、日本とフランス、アメリカを比較しながら、その混
乱を整理し、日本の政治的選択肢の問題をクリアに示してくれる。

まず憲法の比較。日本は「われらとわれらの子孫のために…自由のもたら
す恵沢を確保する」ことを目指し、そのお手本であるアメリカも同様に自
由を指向、一方フランスは「全ての市民に対して法の下での平等」を指向
する。この自由と平等に対する考え方の違いは、社会のあり方にも大きな
差異をもたらす。ソ連崩壊後、社会主義は消滅したとの論調も聞かれたが、
ヨーロッパをはじめとする多くの国で、平等をうたう社会民主主義政党は
確実に議席を確保し、その役割を果たしているという。

その違いを歴史的に見ると、民衆革命によって築かれた共和国フランスは、
絶対王政の中央集権制を継承しつつ、階級も宗教色も排して、全ての国民
を平等な存在と位置づけた。そこから平等を守る《大きな政府》が生まれ、
国民もそのための負担や自由の制約を肯んずる。一方、平等と人権は造物
主からの付与物(独立宣言)とする人権神授国家アメリカは、国家には平
等を保証する義務も権利もないゆえ《小さな政府》となり、格差は自己責
任、力のあるロビィ団体が政治を動かす。そして日本は、近代国家建設の
ための王政復古という明治維新の矛盾、あらゆる政党が弾圧された戦時体
制を経て、左派政党もなぜか小さな政府・(自由経済の恩恵にすぎない)
福祉の無料化・住民参加(=単純な官から民へ)を掲げ、逆に保守派の政権
党は、大きな政府の公共事業により偏向した利益配分を助長してきた。二
大政党を自認する野党も、大同小異の政策しか提示しない。かくて私たち
には今も、平等か/自由かという政治的選択肢がないのである。

それは政策的な路線選択の問題ではなく、各個人の望みや生き方の問題だ
と著者はいう。もちろんフランス社会にも問題はあろう。が、誰もがソリ
ダリテ=連帯を口にし、例えばスト=労働者の権利=自分の問題として支持
し不便を受け入れ、「金銭の有無が知識を会得するための障害となっては
ならない」から学費を原則無償とする社会がそこにはある。翻って、自分
の自由を守るため他者の不自由には目をつぶる社会とは異なる、みんな∋
自分のための「非・自由」を受容する社会、そういう選択肢があると知る
ことからはじめなければならない、この国の成熟への道は前途遼遠…。

NN

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日本とフランス、二つの民主主義/薬師院仁志著(光文社新書265)





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