音楽をもっと身近なものにするために、ヴァイオリンを中心にさまざまな楽器編成で、演奏機会の少ない現代・近代の作品を取り上げて、室内楽コンサートを行っています。初めて聴く音楽に耳を澄ます楽しみを味わってください。
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サラリーマン作家
フランツ・カフカといえば、朝起きれば虫になっていたセールスマンが主
人公の短編『変身』が有名である。しかし『となりのカフカ』(光文社新
書164)の著者池内紀によれば、「目を覚めてみればへんてこな生きもの
になっていたといった物語」自体はそれほど風変わりでも何でもなく、こ
の物語の特質は、主人公が、へんてこな虫になってしまっていることに、
「とりたてて驚かない」ことにあるのだという。
 
大部の評伝と並行して書かれたこのカフカ入門書(しめくくりに修了祝い
のプラハ旅行のためのガイドブック付)は、「イメージがまちがっている。
まるっきり、ちがうのだ。」と、これまでのカフカにつきまとってしまっ
たイメージを払拭することにあり、「どこがへんてこなのか」を厳密にす
るという要素を積み上げていくことによって、新しいカフカの肖像にせま
ろうとしている。
 
ユダヤ人カフカが、保険会社に勤めながらドイツ語で小説を書いていたサ
ラリーマン作家であることはよく知られている。オーストリア帝国の官僚
制がとっていた勤務システムで、カフカは朝8時から午後2時まで昼休み
もなく働くという早番組に属し、かれの勤務後の日課を検証しながら『失
跡者』や『審判』『城』の長編とおおくの短編集がどのように書かれたの
かがあきらかにされていく。勿論、仕事上の出来事を題材としているケー
スも少なくない。この勤務システムは一種のワークシェアであり、仕事以
外の「副業」をもっている人々は、今日以上に多く存在していた。
 
おしゃれでダンディで、メカ狂いの独身者のカフカが、女性からもてたこ
とは容易く想像できる。しかし結婚しなかったのは「小説を書くため」で
はなかった。同じ女性と二度婚約し、そして破棄している。「手紙ストー
カー」だったカフカは、たまたま出会ったこの女性に、日をおかず、とき
には1日に4通も手紙を書く。この『フェリーツェへの手紙』は2巻本と
して邦訳もされている。それよりもっと奇妙なのはユダヤ人だったこの女
性が両大戦間の混乱期、べつの男性との結婚後も、亡命先の米国まで、こ
の手紙を捨てないて持っていたことにあると指摘する。
 
この手紙や日記と同様、ごくわずかな作品を除いて、生前に出版されるこ
となく、結核のために早死にしたカフカのノート類は、友人が、遺言にそ
むいて焼き捨てずに、のちになって出版された。カフカが20世紀を代表
する作家とされていることが、やはり、生前のカフカの生活のイメージか
らもっともかけ離れていることかもしれない。

MM

となりのカフカ/池内紀 著 (光文社新書164)  →Amazonで見る

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